Chanel News

  • By Elisabeth Quin
    in ファッション ショー. (Last updated : 2012年3月16日)

    FALL-WINTER 2012/13 READY-TO-WEAR
    BY ELISABETH QUIN

    心を奪われたクリスタルの清澄。2012/13秋冬 プレタポルテ コレクション ショーの舞台となったグラン パレには、ゆったりとしたやわらかな雰囲気のなか、私たちを圧倒する壮大なセットがしつらえられていました。砂糖や雪のように輝き、無垢な光を放つフロアからそそり立つのは、ダークパープルやホワイト、クリア、またはグレーに染まって輝く大きなクリスタルの森です。巨大な鉱物による幻想の世界。この静謐な、未知なる光景は、シャネルのジュエリーの伝統を讃えるもので、繊細で鋭いシャネルの遊び心と同じくらい魅惑的です。やはりクリスタルには、心に強く訴える力があるのです。

    コレクションの象徴はクリスタル。トルクネックレス、コートのラペル、ツイードドレス、ピーター フィリップスによる素晴らしいメークアップ―そしてルサージュによる刺繍が施されたアイブロウ。クリスタルは、まるで光の魔法により現れた神秘の結晶のよう。原子によって構成される結晶のなかで、原子をモチーフとした規則的なパターンが繰り返し登場します。
    この秋のシャネルのシルエットは、とても刺激的でスタイリッシュ。小さい頭部を強調するように艶やかな髪を後ろでまとめたヘアスタイル。強烈な印象をプラスするのは、アシンメトリーなレザーサンダルや、クリスタルが散りばめられたプレキシガラスのヒール、そして身体にぴったりフィットするパンツや肌をさらに魅力的に見せる華やかなレギンスです。

    あらゆる形で表現されるシャネルの魅力が観客を魅了します。ストリートスタイルは、ツイードのパーカーに施された刺繍やその巧みなカッティングにより生まれ変わり、圧倒的な女性らしさを醸し出しています。コレクションに息づく哲学はレイヤード。ひときわ洗練されたボタン留めのパンツとツイードジャケットに合わせたフレアスカート。この3つの組み合わせは、光沢のあるツイードドレスの上にきらびやかなショートコートを羽織ったスタイルや、モスグリーンの主張のあるレギンスに、アメジストカラーのジャケットとバイアスボタンのスカートを組み合わせたスタイルなど、様々なバリエーションに置き換えられています。なかでも、トープカラー(赤鈍色)のレースを重ねたパンツとドレス、クロップドジャケットを合わせたカジュアルなアンサンブルはとても印象的でした。

    旬のアクセサリーはフード。オーバーサイズで華麗に、または小さなクリスタルを刺繍するなど、遊び心にあふれるスタイルは変幻自在です。フードは、都市のリズムに合わせて躍動する現代のフェミニティーを伝えています。シャネルが表現する女性は、その時代の複雑さやスピードに常に歩調を合わせているのです。
    かつては子供たちや修道僧、ラッパーのものだったフードは、頭を隠すだけでなく、顔を保護しながらも、その魅力を引き立たせています。
    控えめな秋のトーンの羽根飾りが、上品な襟元、コートやエンブロイダリージャケットの肩に彩りを添えています。

    モデルたちは両手をポケットに入れ、背中をベルトで留めた華麗で重厚なツイードコートを、シャネルならではのカジュアルなスタイルで着こなしています。鮮やかなステッチのアメジストカラーやエメラルドカラーのジーンズが、グレーや白で彩られたツイードパンツと好対照をなし、抗しがたい魅力を放っています。ゆったりとしたチェーンニット、そして大胆なモザイクプリントのスカーフ。突如、冬の少女がシンプルなピュアブラックのドレスで登場します。首にアンスラサイトカラー(無煙炭色)のアクセサリーをつけている様子はこのうえなく優美で、詩の中の光景のようです。

    今回のコレクション ショーで特徴的だったのは、ふんだんに取り入れられていた壮麗なジュエリー。幾重にも重なる、クリスタルがはめ込まれたメタルバングル。トルコ石や、嵐の空のような色彩のジェムストーンでアクセントをつけたビブネックレス。そしてクリスタルを散りばめた1970年代風の幾何学的なネックレス。まるで、鉱物にフェミニンな魔法をかけたかのようです。

    バックステージの写真(撮影: ブノワ ペヴェレリ)

     
  • By Elisabeth Quin
    in ファッション ショー. (Last updated : 2012年2月10日)

    SPRING-SUMMER 2012 HAUTE COUTURE
    BY ELISABETH QUIN

    魂の逃避行。空想上のフライト。2012春夏 オートクチュール コレクション ショーに満ちあふれていたのは愛でした。その比類のない卓越したクオリティーや素材、演出、シャネルに捧げられた素晴らしい職人技にも、愛がありました。また、ユーモアのセンスも健在です。1月24日火曜日のグラン パレには、映画『キャッチ ミー イフ ユー キャン』に出てきたような飛行機のキャビンが、忠実に再現されていました。パンナム(パンアメリカン航空)時代の飛行機の旅にまつわる神話とともに、60年代のゆったりとした精神が漂っています。2012年の私たちを迎えてくれたのは、小悪魔的な雰囲気のフライト アテンダント。清々しく美しいスタイルとあたたかく洗練された所作に、思わず笑みがこぼれます。この飛行機にビジネスクラスは存在しません。誰もがファーストクラスに座る、それがシャネルの民主主義です。

    飛行機の製造基準からは大きく外れているかもしれませんが、私たちの頭上には、巨大な雲が流れていきます。コレクション ショーが始まり、続けざまに登場したルックは驚くほどピュアなショート丈のドレス。ロールカラーのネックとドロップ ウエスト、低い位置に施されたポケット、そして今回のコレクションの特徴的なスタイルとして、モデルたちは両手をポケットに入れています。手はアクセサリーの束縛から、心はブルジョアの制約から解き放たれました。きわめてマドモアゼル シャネルらしい、カジュアルでエレガントなスタイル。そして同時に存在するのは、ひとすじの尊大さです。空と大地のはざまで繰り広げられるショーにふさわしく、コレクションにはさまざまなブルーが登場しました。ブルーは豊かさや気高さを表わすとともに、無限を意味する色でもあります。スレート ブルー、サファイア、ラベンダー、ディープ マーブル、コバルト、ラピスラズリ、ネイビー、ミッドナイト ブルー、そして忘れてはならない、シャネルが最も愛するブラック。

    スパンコール刺繍、クリスタル、カボション、羽根やラインストーンから煌めく光が、あらゆる色に輝きを添えています。マットからグロッシーへ。ライト ブルーのスパンコールで覆われ、虹と孔雀の目を模った刺繍が施されたパフスリーブのドレスに、私たちがどれほど触れたかったことでしょう。表面をそっと撫でてみたいと思わせたのは、グレー ブルーのツイード スカート。光沢のある刺繍が施され、裾に向かって、まるで魔法のように、ツイードからレースへと変化しています。そしてブラックのコート ドレス。ショート丈のドレスに用いられた体操選手のネックラインを彷彿とさせるストラップの演出。極楽鳥の羽のような美しいプリーツの立体的な両袖が、息をのむほど優美なバランスを生み出していました。

    1920年代のシルエット、1960年代のグラフィックデザイン、そして1980年代のパンク的反骨精神までも取り入れた見事なコレクション。もっとも、モヒカンを思わせる逆立ったヘアスタイルは豪華なヘッドジュエリーで飾られ、クラストパンクルックとはかけ離れたものになっていました。光またたくカメリア、宝石を散りばめた月、天空のさざめきとともに直立する羽根。ひざ上に星座のような刺繍が施されたストッキングは、このコレクションでどうしても欲しい逸品のひとつとなりました。

    雲がひとつ、機内を漂っています。なんて素敵な演出でしょう。心が痛くなるほどピュアなイブニングガウンのように、淡く、はかない雲です。ショーはフィナーレを迎えます。目を上げると、ガラスの天井越しには星がきらめく夜空がありました。
    「超音速ジェット機の轟音が私の思考を引き裂いてゆく。空には、白く、白く、その航跡が曲線を描いて残るのみ」―ルイ アラゴン(”A supersonic jet cuts off my thoughts with a Bang, trailing its signature across the sky, silent, curling, white, white” – Louis Aragon)

     
  • By Elisabeth Quin
    in ファッション ショー. (Last updated : 2011年10月21日)

    CHANEL MY UNDERWATER LIFE
    BY ELISABETH QUIN

    ジュール ヴェルヌ? ウェス アンダーソン? ジョルジュ メリエス? それとも海底二万里(Twenty Thousand Leagues Under the Sea)でしょうか?
    目の前には、息をのむような海底が再現されています。海藻やエイ、サメ、貝などが配された光景は、どこまでも白い、汚れのない世界。それは、漠とした空間というよりむしろ、率直で楽観的なファッションの精神を形にした大胆な夢の世界です。

    趣向を凝らした夢に引き込まれ、魅了され、観客はショーが始まる前からすでにその中を旅しているような気持ちです。海の中をテーマに、さまざまなバリエーションで展開されるコレクション ショーを前に、期待に胸を膨らませます。

    これぞ最高傑作と呼ぶべきでしょう。一見、シンプルなようで、退屈さは微塵もありません。身体にフィットしたドレスを着た人魚など、決して登場しないショーです。代わりに現れたのは、このうえなく若く、軽やかなシルエットの数々。細く長い手足を強調するような膝上のドレスやスカート。ラグジュリーでゆったりしたニットウェア、ふんわりとしたシルエットのスカートに合わせた素晴らしい白のプルオーバーなど、見せかけではない、真のエレガンスを表現するものばかりでした。特に愛らしかったのは、ジャケットとラミネート加工されたデニムのショート パンツの組み合わせや、海底のイソギンチャクのような刺繍が施されたコンパクトなトップ、背中のラインに沿って魅惑的なカッティングのジャケット、ブロンズカラーの刺繍でウロコを表現したドレスなど。波間にきらめく太陽の光を捉えたようなコレクションです。

    スーツに用いられたツイードにあしらわれたのは、虹色の光を放つルレックスとパール。巧みな細工が、現代性と素材の特質をさらに高めています。アクセントとして用いられた数々の特殊な素材が軽やかさを醸し出しています。シリコン レースのバイカー ジャケットは、力強い印象の黒いプラスチック パイピングが施されたことで、洗練さを極めたルックに仕上がっています。まるで、両手を海の泡の中に入れて取り出したジャケットのよう。

    コレクション全体に、ちょっとしたユーモアが散りばめられています。肩に刺繍が施されたドレスには、レースのような海藻のトロンプルイユ(だまし絵)が。カール ラガーフェルドの遊び心が存分に発揮されていました。

    サンゴの枝や、ビーズで飾られた貝殻の形のヒール。ウニの形のイヤリングやリング。貝の形のクラッチ バッグ。スクエアのキルティングバッグにはチェーンが巻き付けられて、まるで港の税関から戻ってきた小包のようです。すべてに酔いしれる観客。強く印象に残るブラックとホワイト、またはシルバーのアンクルブーツの躍動感は、60年代の「スウィンギング ロンドン」のニュアンスをかすかに醸し出していました。
    足首に届かない丈、透き通ったボリューム感、レース、ストーン、煌めく刺繍、そして空と海に調和した精神が表現された、壮麗で若々しさに満ちた夜でした。

    その根源には、シャネルを象徴するアイコン、パールがありました。
    繊細につなぎ合わせられ、背骨に沿うように飾られたショート ドレスのパールは、肌に施された刺繍のようでした。軽やかで、創意と洗練さに満ちたエネルギッシュなコレクション。その最後を飾ったのは、フローレンス ウェルチ。ボッティチェリのヴィーナスを思わせるスタイルで巨大な貝の中から現れ、ハープ奏者を伴って歌を披露しました。

    彼女の圧倒的な歌声がグランパレを満たす間、ポール ヴァレリーの『海辺の墓地』の一節が私の頭をよぎりました。
    「一陣の涼しさが、海から吹き寄せて、
    私は我に返る…… おお 潮香る力よ、
    波へと走り ふたたび激しく生きてみようか!」

    今回のコレクションは、まさしく「生きること」そのものでした。

    撮影:オリヴィエ サイヤン

     
  • By Elisabeth Quin
    in アーカイブ. (Last updated : 2012年3月6日)

    THE READY-TO-WEAR SHOW
    BY ELISABETH QUIN

    この日、グランパレに出現したのは黙示録後の光景。それはまるで、アンゼルム キーファーによる実物大の絵画か、あるいはミシェル ウエルベックが小説「ランサローテ」で描く錯綜した幻影のようでした。

    黒い砂が敷きつめられた床面に、木板を並べたキャットウォーク。壁面を覆い尽くすように描かれた骨のような木のシルエットは、影のようでも、夢か遠い記憶のようでもあります。床から立ちのぼるスモーク。光が満ちた2つの巨大なボックスから姿を現したモデルの姿が、まるで防護スーツに身を包んでいるかのように輝いています。全てが衝撃的で、当惑するほど強烈な演出でした。

    カール ラガーフェルドが発表した2011/12秋冬 プレタポルテ コレクション ショーは、弱々しさをすべて排除し、ロマンティックやスイートといった言葉とは無縁のショーとなりました。優しさや心休まる感じも見られません。過激で、薄暗く、煌びやかなものが取り除かれた雰囲気の中、最も衝撃的なかたちでシャネルは新境地を切り開いたのです。
    全体を通して破壊的な印象を与えるルック。敵意に満ちたような強さは、シャネルとは一線を画しているはずのストリートやロック、またはナイトライフから取り入れられたもの。それらを、女性が反抗的でマスキュリンなイメージ、男性が華やかで色っぽいイメージで放つ突き放すような気品に昇華させたのです。こうしたルックが醸し出すエレガンスは、古典主義や、折れそうに細いヒールでよろめく女性のイメージを完全に否定するもの。今シーズンのスタイルは、「男性らしさ」や「女性らしさ」を自在に操る術を知る女性たちに愛されるに違いありません。

    コレクションを象徴するアイテムは頑丈なブーツ。1944年に米軍が取り入れて以来、50年以上にわたって様々な階級の兵士たちが着用してきたものを彷彿とさせます。シャネルはそのブーツをあらゆるスタイルを鮮やかにまとめるアイテムとして用いました。メタリック シルバーのメッシュ ケープ。光沢のある千鳥格子のツイード ジャケットとウール パンツのコンビネーション。刺繍を施した黒のマイクロミニのドレスに、キルティング ジャケットとダークグレーのレギンスを合わせ、その足元を「アンクル スカーフ」付きのブーツでまとめた刺激的なスタイル。

    もうひとつの目を見張るようなスタイルは、煌びやかなボタンのついた上質なツイードのミニボレロを、かっちりとした印象の黒のジャケットの上に羽織り、ボトムにグレーのウールパンツ、足元を重厚なブロンズグリーンのシューズでまとめたもの。また、豪華なブルーグリーンのジャケットの装飾は、カジュアルなスタイルにも豪華な趣を添え、一方でイヴニング コンバット ブーツが全体の雰囲気を覆すような存在感を発揮していたのも忘れられません。

    意図されたのは、トレンドのスタイルを打ち砕き、見る人を驚かせること……。言い換えれば、永遠の革新性が踏襲されているということです。今回のコレクションで私たちを虜にしたアイテムは、今にもゲレンデや郊外、あるいは街中に飛び出していきそうなジャンプスーツでした。特に素敵だったのはキャロライン デ メイグレのスタイル。光沢のある黒のジャンプスーツで、肩とネックラインに施されたジッパーがセクシーでした。
    シャネルのプレタポルテ コレクションで、これほどワーキングスタイルやストリートスタイルを連想させる要素が多く取り入れられたことがあったでしょうか。ニットも素晴らしいものでしたが、グレーの濃淡の生地に豪華なボタンがついているグランジシックなロングドレスも素敵でした。心地よさと安心感を感じさせるスタイルには、シャネルらしいひねりをきかせたブーツを合わせていました。

    手の甲にはめられた黒や白の小さな丸型のバッグ。幅広のパンツの裾は折り返され、素肌の足首が無造作に見え隠れしています。レースとオープンワークのモチーフがあしらわれたイヴニング ジャンプスーツは、さらに洗練された雰囲気を湛えています。どのデザインも、魅惑的に見せるテクニックにおいて基本ともいえる、目に見える部分と想像に委ねられる部分の間の緊張感を醸し出しています。今回のコレクションに登場した素晴らしいルックは、裕福な雰囲気とは対極にあって、整えられた正統なスタイルに真っ向から反論するもの。その個性、ロックンロール精神、そしてセックスアピールは、まさに圧巻というほかありませんでした。

    ショー全編をご覧いただくには chanel.com

     
  • By Elisabeth Quin
    in アーカイブ. (Last updated : 2012年2月2日)

    HAUTE COUTURE, HAUTE CULTURE…
    BY ELISABETH QUIN

    オートクチュール―それは夢、ゴールド、そして努力と卓越した技巧が織りなす芸術です。ラグジュアリーを生み出す職人たちを称える賛歌として、また驚くべき熱意の集大成として、素晴らしく壮大な物語として、そして光輝くアトランティスとして、年に2回煌びやかに開催されるオートクチュール コレクション。機械による大量生産が当たり前になったこの時代に、数百、時には数千もの時間をかけ愛情ある手作業により創り出されていくという聖域が、いまだに存在することを私たちに再認識させてくれます。
    「オートクチュール」 という言葉自体は法的に規制されているかもしれませんが、そこから生み出される詩的なインスピレーションには、いかなる制限も課されてはいません。
    今日のフランスでは、オートクチュールを通じて職人たちの唯一無二の技術が次の世代に受け継がれています。シャネルは、こうした知識が確実に伝承され、その技術が後世に引き継がれていくように、刺繍のルサージュや羽根細工のルマリエといった貴重なアトリエを自らの傘下に置いています。
    オートクチュールはフランスの国家財産ですが、ナポレオン3世の時代にオートクチュールを発案したのは、実は英国人のシャルル ウォルトでした。フランス革命から1世紀もたたない時代に、フランスはラグジュアリーこそが自国の素晴らしさを伝える唯一のアンバサダーになることを、短時間で理解したのです。
    ウォルト以降も、キャロ、パトゥ、ポワレ、ヴィオネ、ランバンといったクチュリエたちにより、女性たちが美しくまとう数々のドレスが生み出されましたが、それらは必ずしも、女性の体形を考慮したものではありませんでした。
    そうした中で、ココの愛称で知られるガブリエル シャネルが手をポケットに入れ、口にタバコをくわえたスタイルでファッション界に登場します。彼女自身は無頓着な雰囲気を湛えながら、永遠の輝きと至高のエレガンスを、ジャージーのスーツやドレスで素晴らしく優雅に表現しました。そしてそれは女性にとって真の意味での解放を意味しました。自然な成り行きのようで、実現には必ず誰かの発案が必要とされるもの。女性の望みや憧れを、彼女たち自身が気が付く前に理解する自信と才能を、誰かが備えている必要があったのです。マドモアゼル シャネルは革命家だったのか、それとも予言者だったのか。その両方と言えるのではないでしょうか。

    シャネルの2011春夏 オートクチュール コレクションは、1920年代と21世紀をつなぐ眩い架け橋を作り出しました。
    ローウエストに細身のバスト。優美な足元には透明なリボンのついたバレリーナシューズ。淡いソフトカラーや光沢のあるパールカラー、連なるスパンコールの煌めきが彩りを添えます。刺繍を施したシャツは、脚をどこまでも長く見せるスリムジーンズに合わせています。重厚感やブルジョア的要素を排除した、かつてないほど軽やかで若々しいルック。全体に漂う完璧な気品と贅沢な素材、そこに巧妙に施された控えめな装飾が今回のコレクションの特徴であり、マドモアゼル シャネルにより刻まれたスタイルを見事に再現しています。

    撮影: ブノワ ペヴェレリ

     
  • By Elisabeth Quin
    in アーカイブ. (Last updated : 2011年12月6日)

    THE PARIS-BYZANCE SHOW
    BY ELISABETH QUIN

    2010年12月7日夜。パリは雪混じりの雨でした。カンボン通り31番地の黒い鍛鉄の門をくぐりオートクチュール サロンの階段を上った先には、魔法にかけられたような不思議な世界が広がっていました。15世紀もの時を遡り、ボスポラス海峡の両岸に拡がっていたビザンチン帝国の都がよみがえったのです。イスタンブールがまだコンスタンティノープルと呼ばれ、東洋と西洋の狭間にあって2つの文明をともに昇華させた時代。会場の壁はブロンズのスパンコールで覆われ、東洋風のランタンが官能的な柔らかい光を投げかけています。まるでハーレムのような雰囲気に、ハンドペイントのクッションが並ぶ贅沢なソファーに体を投げ出したい衝動に駆られます。トルコの伝統菓子、ロクムの甘さに酔いしれ、パリにいることを忘れそうになった瞬間に、時を超越した、鮮烈で風刺的なサウンドが聞こえてきました。レジの中でぶつかり合うコインの音。ピンクフロイドのアルバム 『狂気』 に収録されている曲「マネー」です。カール ラガーフェルドのユーモアのセンスに再び衝撃を受けた瞬間でした。そしてショーが始まりました。
    ブラック ツイードにゴールドの糸で刺繍が施された細身のコート。サイハイブーツは黒とエッグシェルホワイトのバイカラー。完璧なピーコート。光沢のある肌のように身体にフィットしたパンツ。ピンクフロイドのサイケデリックなリフレインに合わせるように、モデルたちはキャットウォークをゆったりと進み、中性的なエレガンスを戸惑うように表現しています。その姿は、ビザンチンやイスタンブールから想像される東洋的なイメージとは正反対のもの。アラベスク模様のフラット サンダルを履く彼女が女帝であるなら、その足には翼があるに違いありません。細い腰、くびれたウエストに短い丈のテーラード スカートを装い、小生意気で新鮮なイメージのイヴニング バイカー ジャケットを羽織っています。彼女にとって女帝でいることは、一日だけの、もしくは一夜の夢。決して宿命ではなく、単なるゲームなのです。
    アクセサリーは洗練さの極みともいうべき豪華なものでした。ルサージュによって刺繍が施されたハンドバッグ「2.55」、天然石を散りばめた、小さな中国のティーポットのような巾着型のハンドバッグ。プレタポルテにおいては、華やかで豪華な装飾が、厳密に計算されたカッティングと好対照をなしています。
    続いてマハラニ チュニックと、ヒールを貴石で彩った赤いブーツが登場。白いサテンの襟が清廉な雰囲気のブラック ドレス、黒のレザー スカートとセットアップの七分袖のジャケット。ワイン、マロン、アンティーク ゴールドといった色合いのツイード。ブロンズカラーでパッド入りのフィンガーレス グローブ。いずれも卓越した職人たちの技巧によるもので、ビザンチン美術の象徴といえるモザイクをテーマにした、極めて優美なコレクションです。
    特に素晴らしかったのは、エメラルドグリーンのハーレム パンツを腰で履いていたスタイルや、バギーパンツ、そして「高級なヒッピー」ルックとでも呼ぶべきリブ コーデュロイのスタイルです。実際、今回のコレクションではオリエンタルのあらゆるスタイルが表現されていました。ピエール ロティ、ユスティニアス帝が登場したかと思えば、70年代初頭、マラケシュに滞在するタリサ ゲティの姿も。そして突然、オープンワークと刺繍が施されたボイルの素晴らしいイヴニング ドレスが登場します。モデルたちは、あたかも阿片の世界を漂うかのように無関心さを装います。十字軍の時代から抜け出たような黒と白のチュニック、金のスパンコールで覆われたイヴニング ジャケットはオープンに羽織ることで無邪気な美しさを醸し出しています。いずれも、ゴールドなどの抑えた色遣いによって、仰々しさとは無縁の、落ち着いたラグジュアリーに仕上げられています。
    フィナーレには、ボイルやレース、刺繍などの気品あふれるファブリックでつくられた、聖職者の黒いロングケープという予想外のいでたちで、スーパーモデルのフレジャ ベハが登場。その姿は、カール ラガーフェルドがラヴェンナのサン ヴィターレ聖堂を訪れた際に魅了された、コンスタンティノープルの皇妃テオドラのモザイクそのものでした。

     
  • By Elisabeth Quin
    in アーカイブ. (Last updated : 2011年10月7日)

    SPRING-SUMMER 2011 READY-TO-WEAR
    BY ELISABETH QUIN

    10月5日、グラン パレ(パリ)にて

    ショーの全編を chanel.com にて公開中

    グラン パレに何が起きたのでしょう? 10月5日火曜日、いつものグラン パレは霧のように姿を消し、かわりに現れたのは夢のように幻想的な、石を敷き詰めた類まれなる18世紀のフランス式庭園です。まるで映画のワンシーンのような光景を、2800人の観客は驚くほどの静けさとともに見つめ、子どものように夢中になって時を忘れています。限りない優美さと詩的な雰囲気のなかで、特別な何かが起きているのです。3か所に置かれた噴水からは水が湧き出し、モーニングコートに身を包んだラムルー管弦楽団の80人もの楽団員たちが、ショーのために独特なリズムの夢幻的な曲を奏でています。これは確かに2011年のシャネルの世界ですが、1960年のアラン レネ監督作品 『去年マリエンバートで』 やキューブリック監督作品 『2001年宇宙の旅』 の舞台のようでもあり、時代を逆行するような感覚に心躍らずにはいられません。2011春夏 プレタポルテ コレクション
    ショーが描き出すのは、さり気なく色っぽくて、悪戯っぽくも優美、そして軽やかで、しかも凛としている女性の神秘の時代。シャネルの女性のイメージは、(衣装をシャネルが手がけた)『去年マリエンバートで』 のデルフィーヌ セイリグであり、フレジャ ベハやステラ テナントであり、イネス ド ラ フレサンジュなのです。イネスは刺繍が施された透ける素材を重ねた黒のイブニングドレスにサテンのバレリーナシューズを合わせて登場。その素晴らしく端麗な姿を称える拍手は長く鳴り止みませんでした。
    コレクションのキーワードは軽やかさ。たっぷりとした黒のボイルや、精巧な装飾が施されたもの、上質なチュールの繊細なメッシュなど、いずれも軽い素材が使われています。昼と夜、どちらのスタイルにもフェザーがふんだんに取り入れられ、ツイードに縫いつけたり、ショートドレスの裾を飾ったり、豪華なラフ(ひだ襟)や袖など、あらゆるところに使われています。特筆すべきはオーストリッチのフェザーで覆われたアプリコットカラーのドレス。実にシンプルで、センシュアルです。
    見せるよりも隠すほうが、気持ちはそそられるもの。ペールグレーや穴あきのホワイトジーンズや、ジャケットに巧みに施されたほつれ加工など、そこかしこで見え隠れする素肌……。連続性がもたらす恍惚。すべて見せているようで、実はほとんど何も見せていないボイル素材の透け感のあるドレス。沸き立つ感情。今回のコレクションを象徴するスタイルはショートパンツ。テーラード ショート パンツと呼ぶべきかもしれません。愛さずにはいられない、若さと可愛らしさを備えた圧倒的な魅力。ゆったりとしたシルエットのメタリックシルバーのツイード ジャケットと鮮やかな白がもたらす清廉なイメージによって、シャネルは少女たちのストリートファッションだったショート パンツを、どこまでもエレガントに着こなせる、完璧なアイテムへとスタイリッシュに昇華させたのです。
    刺繍が施されたウェッジソールのブーツや魅惑的なブラックレザーのサイハイブーツ。V字型のヘムラインを持つミッドナイトブルーのニットドレスやダメージ加工を施されたツイード ドレスなど、シャネルを身にまとうのは、期待されていることを知り尽くしながら、自分の
    ペースを崩さない女性。カール ラガーフェルドや今回のコレクションと同様に、ノスタルジアとは無縁の存在。そんな彼女たちは、来るべきものに悠然と構え、自由と欲望のみを目指して未来に向かうのです。この壮麗かつ濃密なショーの陰のミューズ、デルフィーヌ セイリグのように。
    「地面は今も砂利のよう、再びあなたと出会うために歩む私の足元を石が埋め尽くしている……」

     
  • By Elisabeth Quin
    in アーカイブ. (Last updated : 2011年7月6日)

    FALL-WINTER 2010/11 HAUTE COUTURE
    BY ELISABETH QUIN

    規模では、ローマのコロッセオやパリのルテティアアリーナにも匹敵するグランパレ(パリ)のアリーナ。その中央の台座に、旅行中のガリバーでなければ作れないような、高さ18メートルの大きなライオンが鎮座しています。ライオンは虹色に輝く巨大なパールを守るように前足で押さえています。まるで超現実主義者の夢の一場面のように、ドアが開いてパールの中から魔法のようにモデルたちが登場します。その様子は、ライオンの住処から解放された聖ブランディナを現代で見ているかのよう。その美しさで野獣を圧倒し、野性的な魅力で手なずけるのです。7月6日火曜日、シャネルの2010/2011秋冬 オートクチュール コレクション ショーが開催されているその間、恐ろしいはずのライオンは子羊のようにおとなしく穏やかでした。
    3月にはファンタジー ファーをテーマに取り上げたシャネルが、今回注目したのは神話的な動物。カール ラガーフェルドがイエティをモチーフにしたのは、気候変動への注意を喚起するためでした。一方で「獅子の象徴の下に」行われる今回のオートクチュール コレクション ショーは、シャネル、そしてマドモアゼル シャネルの歴史に根ざした、より深い意味を持っています。紋章学や象徴主義などの解釈を掘り下げるまでもなく、獅子は彼女の星座です。彼女のライオン像のコレクションはあまりにも有名です。獅子は5番目の星座であり、再生と復活、それに強さ、美、太陽の輝きを象徴します。これらはすべて、マドモアゼル シャネルの人生、そしてシャネルそのものを表す特徴でもあり、同時にこの秋冬オ-トクチュール コレクションのテーマとなっています。今回のコレクションで表現されたラグジュアリーは、シャネルのメティエダールである、ルサージュ、ルマリエ、マサロ、モンテックスといったアトリエの技術に敬意を表し、贅を尽くした賞賛とも言えるものでした。
    100万個ものスパンコールが縫いつけられたハンド エンブロイダリー ドレス。マサロの技術により生み出されたアンクルブーツを身につけたモデルは、カール ラガーフェルドが(18世紀のドイツの陶器にインスピレーションを得て)考案したフローラルパターンや、王者の威厳をイメージしたスパンコールが刺繍されている短い袖丈のボレロに、体のラインに沿ったシルエットのオーガンザのドレスをまとっています。
    また別のボレロには、スパンコールを用いたひまわりが散りばめられ、ライオンからインスピレーションを得たドレスには、まさにルイ14世を思い起こします。
    秋らしい色を使いながらも、メランコリックな雰囲気はありません。カーキやブロンズ、トープ、ベージュ、ミルクチョコレート、白、ダークネイビー、ミッドナイトブルー、そしてもちろん、黒。ショーの最後に登場したアイテムのひとつには、柔らかく、手の込んだ黒のレースが使われていました。どれも斬新でありながら、身につけたくなるスタイルです。
    チェリーレッドのツイードで仕立てられた大きく広がるフレアー コートは、笑顔のアンナ カレーニナが雪降る森の中で着ても似合いそうですが、新しいファッションを取り入れるのが上手な若さとエネルギーにあふれた都会の女の子が、昼間にパリやニューヨークの街で着るのにもぴったりです。
    この豪華なコレクションは若々しさにあふれています。のびのびと肢体を動かして大股で歩くモデルたち。細いヒールのブーツで少し不安定な足取りに、ライオンのような髪がワイルドに揺れています。7分丈の袖に膝下丈のドレス、膝下を半分隠すフレアスカートは緻密な刺繍が施されたツイードで仕立てられています。夜は短いのです! 「レッドカーペットの上で衣擦れの音をさせるようなドレスはもう十分でしょう?」とカール ラガーフェルドは柔らかな笑顔で語ります。「時代は変わりました。それを察知するのはいつも女性たちです……」 独創性と再生の旗印のもと、シャネルのコレクションには常に首尾一貫して魅力と若々しさがあふれています。
    シャネルならではの遊び心がファンタジーの趣を携えて披露されたのは、モデルのバティストがライオンのマスクをかぶり、白いドレスの花嫁を連れてランウェイに登場したシーン。サウンドスタイリストのミシェル ゴベールが、ルー リードの音楽とIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)のような豊かな音をミックスしたサウンドを作り出していました。でも実は、これはティモシー アンドレという24歳のピアニストの手によるもの。今回のオートクチュール コレクションを見ていると、マドモアゼル シャネルの有名な言葉を思い出さずにはいられません。「偉大なデザイナーは心に未来を持っている」そして「私は私の作るものだけが好きです。もし忘れても、作るだけです」 獅子と永遠の再生のシンボルから登場したのは、シャネルのデザイナー、カール ラガーフェルドです。

     
  • By Elisabeth Quin
    in アーカイブ. (Last updated : 2011年3月29日)

    THE READY-TO-WEAR SHOW
    BY ELISABETH QUIN

    カントリーシックな春夏コレクションに続いて、この冬、シャネルは北極へ向かいます。グラン パレのグラスルーフが映し出すのは、氷塊から切り出した巨大な氷山。氷山から溶け出した水はフィヨルドを思わせるブルーの色をたたえてフロアを覆います。ショーの陽気なプロローグに登場したのは男女のイエティの一団。フェイクファーのフードつきジャンプスーツに身を包み、静かにランウェイを進みます。カール ラガーフェルドのインスピレーションは、気候変動や異常気象から、金融危機の終焉を期待する楽観論にまで広がっています。ユーモアやファンタジー、モダニティー(現代性)によって、シャネルのプレタポルテに新たなアイコンを打ち立てたいとのカール ラガーフェルドの願いから、ラグジュアリーで魅力的、かつ実用的なコレクションが生み出されました。

    あらゆるところに取り入れられているファーは、カールが生み出した「ファンタジーファー」(「フェイク」や「人工毛皮」よりもずっとエレガントなネーミングとして)。ジャケットや、ロバート ライマンの絵画を思わせる白いロングコートの裾を飾ります。夜の帳がおりる頃、冠雪の光に輝く白い「トワイライト」ドレスのアクセントにもファーが使われています。シャネルを象徴するツイードに編み込まれているファーもきわめて効果的に、水晶や苔、冬季の鳥の羽毛、あるいはホッキョクグマのやわらかな毛皮を連想させます。

    チョコレートバーのようにニットとファーが縫い合わされたデザインが印象的なコート。スーツのジャケットには輝くクリスタルのピンを使った刺繍が施され、チェリーレッドののドレスを飾るフリンジは、まるで鍾乳石のようです。膝上の丈が多い今回のコレクションですが、そのシルエットに力強さとゆったりとしたボリューム感を与えたのは、寒さから身を守るためのファー。氷柱のようなヒールのファーブーツや白のショートブーツには、スキーのアイディアを取り入れて、実用的な透明のブーツカバーが付いています。魅力あふれるファンタジーファーのストレートパンツは、普通ならフェミニンなはずのシルエットなのに、ユニセックスで謎めいた印象を与えます。このコレクションで次々に現れる豊かなメタファー(隠喩)。それは、独創的で超現代的な 『氷の女王』 から着想を得たもの。彼女はアイスキューブをモチーフにしたハンドバッグを抱え、雪が霜で覆われて輝いているようなネックレスを胸にまとっています。氷の結晶の刺繍が施され、美しく長い裾を引き、真っ白なチュールやニット、レースがふんだんに用いられた純白のドレスが、暗い夜を明るく照らします。太陽が決して昇らない、長い極地の夜が終わるまで。

     
  • By Elisabeth Quin
    in アーカイブ. (Last updated : 2011年5月23日)

    NOT AFRAID!
    “LES VANITES” BY ELISABETH QUIN

    いつかは必ず私も死ぬということを、このスカルが示しています。そのことを今、私が見つめているこのスカルは知っているのでしょうか。
    永遠の定番モチーフともいえるスカルは、生命とその終焉の象徴。アンドレ マルローは 「人は死体を前にして『なぜだ』とつぶやいた時に生まれるのだ」 と考えました。人は自らの死を意識した時に生を受け、その時から死の謎を追い求め続ける、と。

    スケルトンやスカルのモチーフが初めて登場したのは中世でした。15世紀には最初の 「黄金期」 に達し、ヨーロッパではヴァニタス(空虚)画が描かれるようになりました。そして20世紀後半に、このモチーフは再び、猛烈とも呼べる勢いで登場したのです。
    古典美術においては、スカルによる死の表現は一般に穏やかで神々しいものでした。死とは教会によって、永遠の命に続く道として約束されていたものだったからです。しかし、近代や現代の美術においては、かつての表現は痛烈に否定され、スカルはより不穏な意味を持つようになり、今となっては恐ろしく、暴力的で脅威的なものとなりました。
    第一次世界大戦における大虐殺、マルクス主義と「神は死んだ」というニーチェの言葉の影響、ホロコースト、そして消費主義の台頭……そのいずれもが、西欧文化においてモチーフの意味を著しく変えてきました。今日のスカルは、率直にそして臆面もなく死の不条理を物語ります。自らの魅惑的な醜さ、もしくは恐怖心をそそる美を受け入れ、またさらには、憂鬱さに満ちた不気味なユーモアを含む恐ろしい叫び声を上げるのです。

    迷信、それとも恐怖? 神秘への回帰? あるいは人生そのものへの頌歌なのでしょうか? 
    スカルが私たちの一部であり続ける限り、時代を超えて、スカルのモチーフは美術館が研究するのにふさわしいテーマだといえるでしょう。マイヨール美術館の特別展 『C’est la vie! De Caravage à Damien Hirst(これぞ人生!カラヴァッジョからダミアン ハーストまでのヴァニタス)』 は、『Livre des vanités(ヴァニタスの書)』 の著者であるエリザベス クインの協力を得て実現したものです。この展覧会を記念して、シャネルはカール ラガーフェルドのデザインによる限定スカーフを製作しました。遊び心にあふれた発想、豊かなユーモアとエレガンス、さらには空虚と虚栄の両方を想起させるスケッチには、シャネルのスーツを身にまとって死と向き合う、人間の謙虚さを示すような姿が描かれています。大腿骨を巧みに重ねた格子模様はシャネルの象徴的なデザインであるキルティングをイメージさせます。マドモアゼル シャネルは、かつてハムレットがそうしたようにスカルを手に持ち、そのまなざしは、まばたきする束の間にこう語るようです。「わかっています……もう少しの間、愛、クリエイション……でもヴァニティ(虚栄)が何になるというのでしょう? わかっていますとも……」 
    ユーモアと英知の教訓が打ち出されたきわめてユニークな今回の展覧会に、シャネルはラグジュアリーハウスならではの形で協力しており、製作した1000枚のスカーフは、シャネルとマイヨール美術館の大切な友人たちに贈られます。

    各世紀において人が死をどう表現してきたかを回顧する今回の展覧会は、思い出がつまった特別な箱のように、まず私たちを第一次世界大戦までの時代に誘います。そこで私たちは、ポンペイのモザイク画やカラヴァッジョの 『聖フランチェスコ』、スルバランの 『聖フランチェスコ』、ラトゥールの 『聖フランチェスコの法悦』 といった重厚な逸品、バロック時代のミラドーリの静物画、目を見張るようなリゴッツィの作品に出会います。続いて近代美術に移ると、注目すべきはピカソの謎めいた「骸骨と水差しとリーキのある静物画」、そしてベルナール ビュフェの1947年の作品、また、ある米国人の個人コレクションであったためにこれまで埋もれていたセザンヌの名作、さらにはポール デルヴォーのキリストの磔刑を描いたきわめて衝撃的な作品などを目にすることになります。このデルヴォーの作品は、時代が時代ならば教会から除名され、火あぶりの刑に処せられるほどのものといえるでしょう。そして、最後に現代の作品として出会うのは、ジャン=ピエール レイノー、メイプルソープ、ハースト、チャップマン兄弟、バルセロ、ペンク、バスキア、リヒター、ダニエル スポエッリらの作品。こうして、偉大なコレクションを完成すべく今もなおスカルのモチーフはテーマとして取り上げられるのです。

    各時代において、芸術家たちは存在と不在、存続と忘却の間の振れ幅を見つめてきました。彼らの作品は、2010年6月28日までマイヨール美術館(住所:61 rue de Grenelle, Paris 75007)に展示されました。

    画: カール ラガーフェルド

     
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