Elisabeth Quin

  • 2012年10月8日
    Par Elisabeth Quin
    SPRING-SUMMER 2013 READY-TO-WEAR <BR />BY ELISABETH QUIN

    SPRING-SUMMER 2013 READY-TO-WEAR
    BY ELISABETH QUIN

    グラン パレで火曜日の朝に開催された2013春夏 プレタポルテ コレクション ショー。この日、シャネルが全世界に向けて発表したのはコレクションだけではありませんでした。会場には林立する巨大な風車がしつらえられ、それは、環境に対するメッセージとも見てとれるものでした。

    軽やかでナチュラルな雰囲気、自由な若々しさと躍動感、誇示することのないラグジュアリー、他者や創造性への共感。2012年秋に開催されたこのショーをとおして、爽やかさと新しさに満ちたファッション、再生可能なエネルギー、そして、変化の風が吹いている、ということを斬新な方法で伝えています。

    まるで、アメリカのエッセイスト、ジェレミー リフキンが提唱する第3次産業革命による低炭素経済の実現を目指そうとしているかのようです。

    ランウェイを歩くモデルたちのルックは、爽やかな色彩であふれていました。パープルのパンツスーツの7分袖のジャケットは、エメラルド グリーンで縁どられています。クライン ブルーのスーツとサックドレス、ピンクとモーヴのサテンドレスとパンツのアンサンブル。ミッド レングスのゆったりとしたソフトレザー ジャケットはクリムゾン(深紅色)、サンドカラーのウォッシュド ラムスキンのストラップレス ミニドレス。そして光沢のあるブラウンの生地に施されたキルティングが、イヴニングドレスに流れるようなシルエットと透明感を生み出しています。

    シャネルを象徴する素材であり、テキスタイルの名作といえるツイード。そのマルチカラーは、まさに色遣いの真髄を見るようで、レッグオブマトン スリーブのトップとフューシャで縁どられたバブルドレスのアンサンブルを、驚くほど素敵なルックに仕立てています。華麗で印象的なパフスリーブのショートジャケットのアンサンブルや、ブロンズのスパンコールがあしらわれた7分袖のルーズフィット ドレスはきわめてカラフルで、(ホメロスが「オデュッセイア」においてアイオロスの王国、ストロンボリ島について言及する際に用いた「珍しいゴールデンブロンズ」を連想させるほどに)印象的です。次々と登場する夏らしいカラーパレットの中で、視覚効果においてはツイードが圧倒的であることを証明していました。

    続いてランウェイに登場した色は、ホワイト。マドモアゼル シャネルのお気に入りのカラー(襟)のスタイルであるピーターパン カラーやピエロ カラー、そしてクルーネックドレスのフロッピー ボウ、ツイードとホワイトポプリンのポロドレスなど、スザンヌ ランランのルックを現代に蘇らせたかのようです。イヴニングラインにも、ホワイトは、驚くほど新鮮で洗練されたサマーイヴニング ルックとして登場します。メッシュやピケの白いストラップレスドレス(ショート2点とロング3点)には、プラスティックのフラワーモチーフやパールが散りばめられていました。

    素晴らしい黒のメッシュ使いが施された、エレガントで活動的、かつセンシュアルなパンツスーツが象徴するように、2013年夏のシルエットはロング&スリム、そしてシャネルならではのきわどいアンドロジニーです。シェイプされたウエストが、今回のコレクションのハイライトであるストラップ ドレスやショート ジャケット、マイクロジャケットを完璧なものにしています。ショートパンツやミニスカートが、シンメトリーを演出する細く長い脚を強調し、また、バブルドレスは足首を魅力的に見せています。

    コレクションのアクセサリーは、シャネルの時代を超越したスタイルと現代性を完璧に融合させています。立体的でボリューム感のある「キャビアのような」パールのブレスレットとネックレス。オーバーサイズのハットを縁どるのは、色鮮やかな透明のプラスティックです。
    情熱とセンシュアリティに満ちあふれ、「爽やかな西風の力強い応援を受けて(a favorable gale, a fresh West Wind)」(ホメロス)、清々しく夏に向かう女性。今回のコレクションでカール ラガーフェルドが描き、創り出したのは、明らかにそうした若々しい女性たちのためのシルエットなのです。

  • 2012年7月6日
    Par Elisabeth Quin
    FALL-WINTER 2012/13 HAUTE COUTURE <BR />BY ELISABETH QUIN

    FALL-WINTER 2012/13 HAUTE COUTURE
    BY ELISABETH QUIN

    シャネルの「ニュー ヴィンテージ」オートクチュール コレクション ショー

    グラン パレの新たな革命。1200平米もの広さを誇る、息を飲むほど見事なこのガラス建築は、1900年のパリ万博のメイン会場として建設されました(その当時コレーズのオーバジーヌ修道院で過ごしていたガブリエル シャネルは、17歳にしてすでに素晴らしい裁縫の技術を身につけていました)。今回のショーの会場となったのは、グランパレのサロン ド ヌール。この部屋は100年近く使われていませんでしたが、カール ラガーフェルドがこの隠された至宝に再び光を当てるというアイディアを気にいり、今回のショーのためにこの部屋を、夢のような、豊かな水をたたえた都市庭園に変身させました。白い籐のアームチェア、淡いグレーの壁、アンスラサイトカラー(無煙炭)の敷石、レモネードとカナッペ、そして天井に描かれたトロンプルイユ(だまし絵)の雲海……。ロマンティックなニュアンスを残しつつ、クラシックで、同時に驚くほど洗練された雰囲気は、プルーストの世界、あるいはトーマス マンの宇宙、夢の国が再び現れたかのようです。

    今回のコレクションをいっそう優雅にしているのが、マリー ローランサンのパレットからインスピレーションを得た2つの色、ピンクとグレーです。このコレクションは、ローランサンのコレクションと切り離しては考えられません――「La jeune femme à l’écharpe(スカーフをまとう若い女性)」、「La femme au foulard(ベールの女性)」、「Domenic(ドメニカ)」、そして「Les Biches(牝鹿)」でさえも。「ドメニカ」と「牝鹿」の2枚は、オランジュリー美術館に収蔵されています。流れるようなラインが作りだすほっそりとした姿と、ふんだんに取り入れられたシフォンが醸し出す優美で繊細な女性らしさは、マドモアゼル シャネルがこよなく愛したアンドロジニーに豊かな魅力を加えると同時に、大胆なモダニティを実現しています。
    カール ラガーフェルドの心を躍らせたパラドックス、「ニュー ヴィンテージ」とはどんなものなのでしょう?

    それは、シャネルとそのコレクションの歴史を表現する手法です。まずは1900年からの10年を、コレットへのトリビュートとして白いオーガンザのピーターパン カラーと黒いヴェルヴェットのフレアドレスのスタイルで振り返ります。1920年代は、ローウエストと細い腰、はっきりとしたラインとラメ使いで表現。60年代は、バブルガムピンクの見事なスーツに、カナリアイエローといった思いきりポップで大胆な色彩が特徴です。そして70年代といえば、バギーパンツや、アスコットとパフスリーブのシャツの組み合わせ、スタッズベルト、スラッシュネックがシックな民族衣装ガンドゥーラ。背中からウエスト近くまで大きくあいたベアバックは、シャネルにはとても珍しいスタイルです。そして光る素材やパールで飾られたストッキングで、80年代のグラムロックスタイルの幕が開きます。

    壮麗で、信じられないほど統一感のある魅惑的なルックが次々に登場します。経済危機の時代におけるパラドックスにふさわしい、ラグジュアリーでありながら、シンプルなコレクション。極めて繊細なレザーのロング カフが瀟洒なゴシック調のニュアンスを添えていることを除けば、シルエットはいたってシンプルです。ジュエリーやアクセサリーもなく、主張し過ぎることも、華美になり過ぎることもなく、素材とディテールが驚くほどの華麗さとラグジュアリーを醸し出しています。

    刺繍の素晴らしさには、ため息がでるほどです。洗練されたアンゴラウールのモチーフ、パールピンクのマイクロチューブ、ラインストーンを紡いだトップス、チュールにあしらわれた小さなクローバーの花……。羽根飾りのアトリエ、ルマリエの見事な技巧からも目が離せません。繊細な羽根をハートの形に刺繍した、ほとんど透明に近い白のロングチュール コート。そして、フェザー スカートとフェザーのハイカラーが奇跡のようなブライダル ガウン。イヴニング ガウンには、淡いピンクのカメリアを散りばめたヴァージンシフォンが刺繍されています。刺繍が施されたツイードと「フェイク」ツイードはこの上なく柔らかく、七分袖の豪華なイヴニング ジャケットや、ブラック&ホワイトのスーツ、マットな素材と光沢のある素材を組み合わせたコート ドレスに仕立てられています。ブルーピンクとグレーピンクのラメ。ブルーから、少しずつ日没に向かって赤く染まり、グレーから輝くピンクの夜明けへと続くグラデーション。この色彩は、マリー ローランサンのパレットそのままです。

    ローランサンが「牝鹿」を描く2年前の1922年に、マルセル プルーストは世を去りました。「ファッションは移り変わるもの。なぜなら、それ自体が変化の必要性から生まれたものなのだから」とは、プルーストが「花咲く乙女たちのかげに」のなかに遺した言葉です。
    シャネルの「ニュー ヴィンテージ」、それはまさに時を超える旅なのです。

    撮影 オリヴィエ サイヤン

  • 2012年5月23日
    Par Elisabeth Quin
    CRUISE 2012/13 <BR />BY ELISABETH QUIN

    CRUISE 2012/13
    BY ELISABETH QUIN

    ヴェルサイユ宮殿に湧き出る シャネルの若返りの泉

    シャネルが2012/13 クルーズ コレクション ショーの舞台として選びランウェイに仕立てたのは、ヴェルサイユ宮殿にある「ボスケ デ トロワ フォンテーヌ(the Bosquet des Trois Fontaines)」でした。貝殻や石で飾られた噴水が趣を添えるこの庭園は、太陽王と呼ばれたルイ14世が1677年に考案したものです(カリスマ的な君主で、ヴェルサイユ宮殿を愛し、芸術への造詣が深く、多くの才能に恵まれたルイ14世は、ある意味カール ラガーフェルドのような人物だったと言えるかもしれません)。設計を手掛けたのは、造園家のアンドレ ル ノートル。この素晴らしい舞台で発表されたコレクションは、若々しく遊び心があり、優雅でアイディアにあふれ、モダンでありながらバロック風ともいえるものでした。
    月曜日の夕刻、チェンバロの音色とマイケル ジャクソンのエレクトロ リミックスが流れる庭園は、幻想的なグランジの空気で満たされていました。

    フロンドの乱の反体制精神にインスパイアされた今回のコレクション。注目すべきは、後頭部の高い位置で(悪名高いギロチンをイメージさせるかのように)切り揃えられたパステルカラーやブラックのショートボブのウィッグを、リボンで結んだ長いポニーテールの上に付けたヘアスタイル。さらに過激さをプラスしていたのは、モデルたちに施された大胆なメークアップです。彼女たちはパーティー帰りの若い侯爵夫人のように、生垣の迷路や風そよぐ庭園を気ままに歩きます。その肌は、映画『トワイライト』を連想させるほど青白く、目の下には小さなCCマークのアクセントが添えられています。

    そして、最初のモデルたちが登場するとともに、このクルーズ コレクションの真に革命的なルックが凱旋を果たします。エッジの効いた「ラグジュアリーなストリートウェア」の足元はプラットフォーム スニーカー。ふんわりとしたシルエットのキュロットスカートにはレースのフリルがあしらわれ、クラシックとストリートを芸術的に融合させたスタイルに仕上がっています。ひざ丈のニッカーボッカーズは、ひざ下でボタンを留めるようになっており、躍動感と若さがあふれる軽やかなスタイルを象徴するようでした。ゴールドのプラットフォーム スニーカーや、それに合わせたこのソフトデニムのパンツは、カール ラガーフェルドが愛してやまないアイテムです。 ゴールドの刺繍を施したノースリーブのデニム ジャケットは、細部にミリタリーの要素が加えられ、華麗さと意外性を醸し出していました。いっぽうで、スカーレット ピンクとブルー、ホワイトという愛国心あふれるトリコロールが編み込まれた白のツイード ジャケットは、フランスが受け継いできた革命の精神に、最先端のファッションで応えているかのようです。

    私たちを魅了したルックは、レースが刺繍された七分袖のジャケットとボリュームたっぷりのパラッツォ パンツの組み合わせや、テーラード ジャケットの下からジゴスリーブをのぞかせる白いブラウス、歩調に合わせて軽快に揺れるミニスカート、優雅で気品あふれるウエストコートなど。ロック風でエッジーな黒いジップ ジャケットにはスパンコールの刺繍が施され、マーキゼットのスカートを合わせています。プリーツが入ったゴールドのスカ―トと、ウエストがシェイプされた白のプルオーバーを組み合わせた豪奢なルック。純白のドレスにあしらわれたアセテート素材のカラフルな装飾は、18世紀のスタイルに21世紀の素材を見事に融合させており、今回のシャネルのショーを象徴するようでした。

    夕暮れに包まれて「ボスケ デ トロワ フォンテーヌ」を後にしながら、(不朽のノスタルジアの必須要素である)柔軟かつ軽快で、若々しい感性に満ちた、貴族のロックな舞踏会ともいえるこのコレクション ショーの終わりに想い起こされるのは、ラ ブリュイエールの次の言葉でした。「最も大きな快楽は、他人を楽しませることである」。それこそが、シャネルなのです。

  • 2012年3月9日
    Par Elisabeth Quin

    FALL-WINTER 2012/13 READY-TO-WEAR
    BY ELISABETH QUIN

    心を奪われたクリスタルの清澄。2012/13秋冬 プレタポルテ コレクション ショーの舞台となったグラン パレには、ゆったりとしたやわらかな雰囲気のなか、私たちを圧倒する壮大なセットがしつらえられていました。砂糖や雪のように輝き、無垢な光を放つフロア からそそり立つのは、ダークパープルやホワイト、クリア、またはグレーに染まって輝く大きなクリスタルの森です。巨大な鉱物による幻想の世界。この静謐 な、未知なる光景は、シャネルのジュエリーの伝統を讃えるもので、繊細で鋭いシャネルの遊び心と同じくらい魅惑的です。やはりクリスタルには、心に強く訴 える力があるのです。

    コレクションの象徴はクリスタル。トルクネックレス、コートのラペル、ツイードドレス、ピーター フィリップスによる素晴らしいメークアップ――そしてルサージュによる刺繍が施されたアイブロウ。クリスタルは、まるで光の魔法により現れた神秘の結晶の よう。原子によって構成される結晶のなかで、原子をモチーフとした規則的なパターンが繰り返し登場します。
    この秋のシャネルのシルエットは、とても刺激的でスタイリッシュ。小さい頭部を強調するように艶やかな髪を後ろでまとめたヘアスタイル。強烈な印象をプラ スするのは、アシンメトリーなレザーサンダルや、クリスタルが散りばめられたプレキシガラスのヒール、そして身体にぴったりフィットするパンツや肌をさら に魅力的に見せる華やかなレギンスです。

    あらゆる形で表現されるシャネルの魅力が観客を魅了します。ストリートスタイルは、ツイードのパーカーに施された刺繍やその巧みなカッティングによ り生まれ変わり、圧倒的な女性らしさを醸し出しています。コレクションに息づく哲学はレイヤード。ひときわ洗練されたボタン留めのパンツとツイードジャ ケットに合わせたフレアスカート。この3つの組み合わせは、光沢のあるツイードドレスの上にきらびやかなショートコートを羽織ったスタイルや、モスグリー ンの主張のあるレギンスに、アメジストカラーのジャケットとバイアスボタンのスカートを組み合わせたスタイルなど、様々なバリエーションに置き換えられて います。なかでも、トープカラー(赤鈍色)のレースを重ねたパンツとドレス、クロップドジャケットを合わせたカジュアルなアンサンブルはとても印象的でし た。

    旬のアクセサリーはフード。オーバーサイズで華麗に、または小さなクリスタルを刺繍するなど、遊び心にあふれるスタイルは変幻自在です。フードは、 都市のリズムに合わせて躍動する現代のフェミニティーを伝えています。シャネルが表現する女性は、その時代の複雑さやスピードに常に歩調を合わせているの です。
    かつては子供たちや修道僧、ラッパーのものだったフードは、頭を隠すだけでなく、顔を保護しながらも、その魅力を引き立たせています。
    控えめな秋のトーンの羽根飾りが、上品な襟元、コートやエンブロイダリージャケットの肩に彩りを添えています。

    モデルたちは両手をポケットに入れ、背中をベルトで留めた華麗で重厚なツイードコートを、シャネルならではのカジュアルなスタイルで着こなしていま す。鮮やかなステッチのアメジストカラーやエメラルドカラーのジーンズが、グレーや白で彩られたツイードパンツと好対照をなし、抗しがたい魅力を放ってい ます。ゆったりとしたチェーンニット、そして大胆なモザイクプリントのスカーフ。突如、冬の少女がシンプルなピュアブラックのドレスで登場します。首にア ンスラサイトカラー(無煙炭色)のアクセサリーをつけている様子はこのうえなく優美で、詩の中の光景のようです。

    今回のコレクション ショーで特徴的だったのは、ふんだんに取り入れられていた壮麗なジュエリー。幾重にも重なる、クリスタルがはめ込まれたメタルバングル。トルコ石や、嵐の 空のような色彩のジェムストーンでアクセントをつけたビブネックレス。そしてクリスタルを散りばめた1970年代風の幾何学的なネックレス。まるで、鉱物 にフェミニンな魔法をかけたかのようです。

    バックステージの写真(撮影: ブノワ ペヴェレリ)

  • 2012年2月3日
    Par Elisabeth Quin
    SPRING-SUMMER 2012 HAUTE COUTURE <br />BY ELISABETH QUIN

    SPRING-SUMMER 2012 HAUTE COUTURE
    BY ELISABETH QUIN

    魂の逃避行。空想上のフライト。2012春夏 オートクチュール コレクション ショーに満ちあふれていたのは愛でした。その比類のない卓越したクオリティーや素材、演出、シャネルに捧げられた素晴らしい職人技にも、愛がありました。 また、ユーモアのセンスも健在です。1月24日火曜日のグラン パレには、映画『キャッチ ミー イフ ユー キャン』に出てきたような飛行機のキャビンが、忠実に再現されていました。パンナム(パンアメリカン航空)時代の飛行機の旅にまつわる神話とともに、60 年代のゆったりとした精神が漂っています。2012年の私たちを迎えてくれたのは、小悪魔的な雰囲気のフライト アテンダント。清々しく美しいスタイルとあたたかく洗練された所作に、思わず笑みがこぼれます。この飛行機にビジネスクラスは存在しません。誰もがファー ストクラスに座る、それがシャネルの民主主義です。

    飛行機の製造基準からは大きく外れているかもしれませんが、私たちの頭上には、巨大な雲が流れていきます。コレクション ショーが始まり、続けざまに登場したルックは驚くほどピュアなショート丈のドレス。ロールカラーのネックとドロップ ウエスト、低い位置に施されたポケット、そして今回のコレクションの特徴的なスタイルとして、モデルたちは両手をポケットに入れています。手はアクセサ リーの束縛から、心はブルジョアの制約から解き放たれました。きわめてマドモアゼル シャネルらしい、カジュアルでエレガントなスタイル。そして同時に存在するのは、ひとすじの尊大さです。空と大地のはざまで繰り広げられるショーにふさわ しく、コレクションにはさまざまなブルーが登場しました。ブルーは豊かさや気高さを表わすとともに、無限を意味する色でもあります。スレート ブルー、サファイア、ラベンダー、ディープ マーブル、コバルト、ラピスラズリ、ネイビー、ミッドナイト ブルー、そして忘れてはならない、シャネルが最も愛するブラック。

    スパンコール刺繍、クリスタル、カボション、羽根やラインストーンから煌めく光が、あらゆる色に輝きを添えています。マットからグロッシーへ。ライ ト ブルーのスパンコールで覆われ、虹と孔雀の目を模った刺繍が施されたパフスリーブのドレスに、私たちがどれほど触れたかったことでしょう。表面をそっと撫 でてみたいと思わせたのは、グレー ブルーのツイード スカート。光沢のある刺繍が施され、裾に向かって、まるで魔法のように、ツイードからレースへと変化しています。そしてブラックのコート ドレス。ショート丈のドレスに用いられた体操選手のネックラインを彷彿とさせるストラップの演出。極楽鳥の羽のような美しいプリーツの立体的な両袖が、息 をのむほど優美なバランスを生み出していました。

    1920年代のシルエット、1960年代のグラフィックデザイン、そして1980年代のパンク的反骨精神までも取り入れた見事なコレクション。もっ とも、モヒカンを思わせる逆立ったヘアスタイルは豪華なヘッドジュエリーで飾られ、クラストパンクルックとはかけ離れたものになっていました。光またたく カメリア、宝石を散りばめた月、天空のさざめきとともに直立する羽根。ひざ上に星座のような刺繍が施されたストッキングは、このコレクションでどうしても 欲しい逸品のひとつとなりました。

    雲がひとつ、機内を漂っています。なんて素敵な演出でしょう。心が痛くなるほどピュアなイヴニングガウンのように、淡く、はかない雲です。ショーはフィナーレを迎えます。目を上げると、ガラスの天井越しには星がきらめく夜空がありました。
    「超音速ジェット機の轟音が私の思考を引き裂いてゆく。空には、白く、白く、その航跡が曲線を描いて残るのみ」――ルイ アラゴン("A supersonic jet cuts off my thoughts with a Bang, trailing its signature across the sky, silent, curling, white, white" – Louis Aragon)

  • 2011年12月14日
    Par Elisabeth Quin
    PARIS-BOMBAY MÉTIERS D'ART <BR />BY ELISABETH QUIN

    PARIS-BOMBAY MÉTIERS D'ART
    BY ELISABETH QUIN

    ここは12月のパリだというのに、グラン パレには、かすかにジャスミンの香りが漂っています。天井では、頑丈そうな金属梁が巨大なクリスタルのシャンデリアを支えています。年代を感じさせるブ ロックの壁は、ムガール帝国の宮殿のファサードを思わせる、淡いグレーの大理石で覆われました。広がるのは夢幻の世界。バスケットに積み上げられたマン ゴーやバラ、ピスタチオがキャンドル ライトの光を浴びて輝き、シルバーのミニチュア機関車が、規則正しい音を立てて進んでいます。線路が敷かれているのは、壮麗なバンケット テーブルの上。これほど豪華な光景は、インドのジャイサルメール以西ではめったにお目にかかれるものではありません。

    シャネルのCCマークを冠した機関車から煙が噴き出しています。この可愛らしいダー(ジ)リン エクスプレスは今回のコレクション ショーの象徴です。最高峰の職人技術(メティエダール)に敬意を表してグラン パレに再現されたマハラジャの宮殿で、私たちはパリにいながら時間の制約から解き放たれ、空想上のインドを旅するのです。インドとシャネル。それは、誰も が納得する組み合わせです。マドモアゼル シャネル自身、1950年代の後半から1960年代の初めにかけて、インドのドレスをヒントにした作品を数多くデザインしました。

    このうえなく豪華な素材。シルクのブロケード、ゴールドやシルバーのラメ、クレープ、ダッチェスサテン、パール、刺繍、ハンドペイントされたムガー ル帝国の花のモチーフ、連なるパール……。 アンドロジナスな雰囲気が漂う伝統的なドレスには、楽しくそしてこの上なく優美な解釈が加えられました。身体にフィットした白のジョッパーズは白のツイー ド ジャケットと、しなやかなパンツ「サルワール」は、曲線のラインが美しいチュニック「カミーズ」と組み合わせています。チュニックには、ラインストーンが あしらわれたものもあれば、黒地にゴールドの麦穂が刺繍されているものも。サリーやハーレム パンツには、優雅なサルワールや、モチーフがあしらわれた柔らかいホワイト レザーのサイハイ ブーツが。ビジューを施したダーク レッドのヴェルヴェットのブーツも素敵でした。今回のコレクションの象徴的なスタイルはハーレム スカート。動くたびにさらさらと音を立て、美しいドレープが官能的に揺れます。そして注目すべきは、ラインストーンを散りばめたミリタリー調のフロック コート、インドの男性用コート「アチカン」の様々なアレンジ、クラシックな「ネール」カラーのブロケード地のコートなどで、ミラー刺繍を施したポケットや バロック パールが取り入れられていました。

    特に素晴らしかったのは、きらめくゴールドの刺繍が施された、バイカー風のミリタリー ジャケットを、ボトムにやはりゴールドのブレードを刺繍した白いフレア スカートと組み合わせたルック。イスラム神秘主義の儀式である旋舞にも合いそうです。また、肩をディアマンテで飾り、インドの強烈な「ラニ」ピンクの刺繍 が散りばめられたジャケットを見て興奮していると、続いて登場したのは、ゴールド ラメのハーレム パンツとツイード ジャケットの組み合わせ、そして完璧なバランスのブラックとピンクのテーラード スーツ。さらに私たちの心を奪ったのは、白のイヴニング ドレスと、あらゆる表情を見せる「デュパッタ」スカーフでした。詩人のラビンドラナート タゴールなら、「逃亡者」と称したでしょうか。

    ショーに度々登場したのは、洗練されたフラット サンダル。インドの宮廷で高貴な女性が身につけた靴「モージャリー」をヒントにしたネオロック調のパンプスや、スウィンギング ロンドンへの回帰をうかがわせるゴールドのスパンコールで飾られたフラットなアンクルブーツが、流れるような若々しいルックを引き立てていました。宝石を あしらったレザーやシルバー チェーンのフィンガーレス グローブ、そしてラスタドレッドロックスをイメージしたようなラフなヘアスタイルは、ミシェル ゴベールのサイケデリックなサウンドトラックが醸し出す1970年代ヒッピーの聖地ゴアのヴァイブに華麗なひねりを加えるかのようです。

    この魅惑的なメティエダール コレクションは、最高峰の職人技術への敬意を込めて作られたものですが、結果的に空想上のインドの栄光を称えるものともなりました。アンドロジナスで、か つフェミニンという極めてモダンなルックは、インドの精神的な遺産、すなわち、シヴァとシャクティという、男性と女性の力の結合と調和の象徴から導き出さ れています。それは、シャネルの表現する女性が見出した自身の「ダーマ」ともいえるのでしょう。

    撮影 © オリヴィエ サイヤン

  • 2011年10月13日
    Par Elisabeth Quin
    CHANEL MY UNDERWATER LIFE <BR />BY ELISABETH QUIN

    CHANEL MY UNDERWATER LIFE
    BY ELISABETH QUIN

    ジュール ヴェルヌ? ウェス アンダーソン? ジョルジュ メリエス? それとも海底二万里(Twenty Thousand Leagues Under the Sea)でしょうか?
    目の前には、息をのむような海底が再現されています。海藻やエイ、サメ、貝などが配された光景は、どこまでも白い、汚れのない世界。それは、漠とした空間というよりむしろ、率直で楽観的なファッションの精神を形にした大胆な夢の世界です。

    趣向を凝らした夢に引き込まれ、魅了され、観客はショーが始まる前からすでにその中を旅しているような気持ちです。海の中をテーマに、さまざまなバリエーションで展開されるコレクション ショーを前に、期待に胸を膨らませます。

    これぞ最高傑作と呼ぶべきでしょう。一見、シンプルなようで、退屈さは微塵もありません。身体にフィットしたドレスを着た人魚など、決して登場しないショーです。代わりに現れたのは、このうえなく若く、軽やかなシルエットの数々。細く長い手足を強調するような膝上のドレスやスカート。ラグジュリーでゆったりしたニットウェア、ふんわりとしたシルエットのスカートに合わせた素晴らしい白のプルオーバーなど、見せかけではない、真のエレガンスを表現するものばかりでした。特に愛らしかったのは、ジャケットとラミネート加工されたデニムのショート パンツの組み合わせや、海底のイソギンチャクのような刺繍が施されたコンパクトなトップ、背中のラインに沿って魅惑的なカッティングのジャケット、ブロンズカラーの刺繍でウロコを表現したドレスなど。波間にきらめく太陽の光を捉えたようなコレクションです。

    スーツに用いられたツイードにあしらわれたのは、虹色の光を放つルレックスとパール。巧みな細工が、現代性と素材の特質をさらに高めています。アクセントとして用いられた数々の特殊な素材が軽やかさを醸し出しています。シリコン レースのバイカー ジャケットは、力強い印象の黒いプラスチック パイピングが施されたことで、洗練さを極めたルックに仕上がっています。まるで、両手を海の泡の中に入れて取り出したジャケットのよう。

    コレクション全体に、ちょっとしたユーモアが散りばめられています。肩に刺繍が施されたドレスには、レースのような海藻のトロンプルイユ(だまし絵)が。カール ラガーフェルドの遊び心が存分に発揮されていました。

    サンゴの枝や、ビーズで飾られた貝殻の形のヒール。ウニの形のイヤリングやリング。貝の形のクラッチ バッグ。スクエアのキルティングバッグにはチェーンが巻き付けられて、まるで港の税関から戻ってきた小包のようです。すべてに酔いしれる観客。強く印象に残るブラックとホワイト、またはシルバーのアンクルブーツの躍動感は、60年代の「スウィンギング ロンドン」のニュアンスをかすかに醸し出していました。
    足首に届かない丈、透き通ったボリューム感、レース、ストーン、煌めく刺繍、そして空と海に調和した精神が表現された、壮麗で若々しさに満ちた夜でした。

    その根源には、シャネルを象徴するアイコン、パールがありました。
    繊細につなぎ合わせられ、背骨に沿うように飾られたショート ドレスのパールは、肌に施された刺繍のようでした。軽やかで、創意と洗練さに満ちたエネルギッシュなコレクション。その最後を飾ったのは、フローレンス ウェルチ。ボッティチェリのヴィーナスを思わせるスタイルで巨大な貝の中から現れ、ハープ奏者を伴って歌を披露しました。

    彼女の圧倒的な歌声がグランパレを満たす間、ポール ヴァレリーの『海辺の墓地』の一節が私の頭をよぎりました。
    「一陣の涼しさが、海から吹き寄せて、
    私は我に返る...... おお 潮香る力よ、
    波へと走り ふたたび激しく生きてみようか!」

    今回のコレクションは、まさしく「生きること」そのものでした。


    撮影:オリヴィエ サイヤン

  • 2011年3月10日
    Par Elisabeth Quin
    THE READY-TO-WEAR SHOW <br/>BY ELISABETH QUIN

    THE READY-TO-WEAR SHOW
    BY ELISABETH QUIN

    この日、グランパレに出現したのは黙示録後の光景。それはまるで、アンゼルム キーファーによる実物大の絵画か、あるいはミシェル ウエルベックが小説「ランサローテ」で描く錯綜した幻影のようでした。

     

    黒い砂が敷きつめられた床面に、木板を並べたキャットウォーク。壁面を覆い尽くすように描かれた骨のような木のシルエットは、影のようでも、夢か遠い記憶のようでもあります。床から立ちのぼるスモーク。光が満ちた2つの巨大なボックスから姿を現したモデルの姿が、まるで防護スーツに身を包んでいるかのように輝いています。全てが衝撃的で、当惑するほど強烈な演出でした。

     

    カール ラガーフェルドが発表した2011/12秋冬 プレタポルテ コレクション ショーは、弱々しさをすべて排除し、ロマンティックやスイートといった言葉とは無縁のショーとなりました。優しさや心休まる感じも見られません。過激で、薄暗く、煌びやかなものが取り除かれた雰囲気の中、最も衝撃的なかたちでシャネルは新境地を切り開いたのです。
    全体を通して破壊的な印象を与えるルック。敵意に満ちたような強さは、シャネルとは一線を画しているはずのストリートやロック、またはナイトライフから取り入れられたもの。それらを、女性が反抗的でマスキュリンなイメージ、男性が華やかで色っぽいイメージで放つ突き放すような気品に昇華させたのです。こうしたルックが醸し出すエレガンスは、古典主義や、折れそうに細いヒールでよろめく女性のイメージを完全に否定するもの。今シーズンのスタイルは、「男性らしさ」や「女性らしさ」を自在に操る術を知る女性たちに愛されるに違いありません。

     

    コレクションを象徴するアイテムは頑丈なブーツ。1944年に米軍が取り入れて以来、50年以上にわたって様々な階級の兵士たちが着用してきたものを彷彿とさせます。シャネルはそのブーツをあらゆるスタイルを鮮やかにまとめるアイテムとして用いました。メタリック シルバーのメッシュ ケープ。光沢のある千鳥格子のツイード ジャケットとウール パンツのコンビネーション。刺繍を施した黒のマイクロミニのドレスに、キルティング ジャケットとダークグレーのレギンスを合わせ、その足元を「アンクル スカーフ」付きのブーツでまとめた刺激的なスタイル。

     

    もうひとつの目を見張るようなスタイルは、煌びやかなボタンのついた上質なツイードのミニボレロを、かっちりとした印象の黒のジャケットの上に羽織り、ボトムにグレーのウールパンツ、足元を重厚なブロンズグリーンのシューズでまとめたもの。また、豪華なブルーグリーンのジャケットの装飾は、カジュアルなスタイルにも豪華な趣を添え、一方でイヴニング コンバット ブーツが全体の雰囲気を覆すような存在感を発揮していたのも忘れられません。

     

    意図されたのは、トレンドのスタイルを打ち砕き、見る人を驚かせること……。言い換えれば、永遠の革新性が踏襲されているということです。今回のコレクションで私たちを虜にしたアイテムは、今にもゲレンデや郊外、あるいは街中に飛び出していきそうなジャンプスーツでした。特に素敵だったのはキャロリーヌ ドゥ メグレのスタイル。光沢のある黒のジャンプスーツで、肩とネックラインに施されたジッパーがセクシーでした。
    シャネルのプレタポルテ コレクションで、これほどワーキングスタイルやストリートスタイルを連想させる要素が多く取り入れられたことがあったでしょうか。ニットも素晴らしいものでしたが、グレーの濃淡の生地に豪華なボタンがついているグランジシックなロングドレスも素敵でした。心地よさと安心感を感じさせるスタイルには、シャネルらしいひねりをきかせたブーツを合わせていました。

     

    手の甲にはめられた黒や白の小さな丸型のバッグ。幅広のパンツの裾は折り返され、素肌の足首が無造作に見え隠れしています。レースとオープンワークのモチーフがあしらわれたイヴニング ジャンプスーツは、さらに洗練された雰囲気を湛えています。どのデザインも、魅惑的に見せるテクニックにおいて基本ともいえる、目に見える部分と想像に委ねられる部分の間の緊張感を醸し出しています。今回のコレクションに登場した素晴らしいルックは、裕福な雰囲気とは対極にあって、整えられた正統なスタイルに真っ向から反論するもの。その個性、ロックンロール精神、そしてセックスアピールは、まさに圧巻というほかありませんでした。

     

    ショー全編をご覧いただくには chanel.com へ

     

  • 2011年2月3日
    Par Elisabeth Quin
    HAUTE COUTURE, HAUTE CULTURE… <br/>BY ELISABETH QUIN

    HAUTE COUTURE, HAUTE CULTURE…
    BY ELISABETH QUIN

    オートクチュール―それは夢、ゴールド、そして努力と卓越した技巧が織りなす芸術です。ラグジュアリーを生み出す職人たちを称える賛歌として、また驚くべき熱意の集大成として、素晴らしく壮大な物語として、そして光輝くアトランティスとして、年に2回煌びやかに開催されるオートクチュール コレクション。機械による大量生産が当たり前になったこの時代に、数百、時には数千もの時間をかけ愛情ある手作業により創り出されていくという聖域が、いまだに存在することを私たちに再認識させてくれます。
    「オートクチュール」 という言葉自体は法的に規制されているかもしれませんが、そこから生み出される詩的なインスピレーションには、いかなる制限も課されてはいません。
    今日のフランスでは、オートクチュールを通じて職人たちの唯一無二の技術が次の世代に受け継がれています。シャネルは、こうした知識が確実に伝承され、その技術が後世に引き継がれていくように、刺繍のルサージュや羽根細工のルマリエといった貴重なアトリエを自らの傘下に置いています。
    オートクチュールはフランスの国家財産ですが、ナポレオン3世の時代にオートクチュールを発案したのは、実は英国人のシャルル ウォルトでした。フランス革命から1世紀もたたない時代に、フランスはラグジュアリーこそが自国の素晴らしさを伝える唯一のアンバサダーになることを、短時間で理解したのです。
    ウォルト以降も、キャロ、パトゥ、ポワレ、ヴィオネ、ランバンといったクチュリエやクチュリエールにより、女性たちが美しくまとう数々のドレスが生み出されましたが、それらは必ずしも、女性の体形を考慮したものではありませんでした。
    そうした中で、ココの愛称で知られるガブリエル シャネルが手をポケットに入れ、口にタバコをくわえたスタイルでファッション界に登場します。彼女自身は無頓着な雰囲気を湛えながら、永遠の輝きと至高のエレガンスを、ジャージーのスーツやドレスで素晴らしく優雅に表現しました。そしてそれは女性にとって真の意味での解放を意味しました。自然な成り行きのようで、実現には必ず誰かの発案が必要とされるもの。女性の望みや憧れを、彼女たち自身が気が付く前に理解する自信と才能を、誰かが備えている必要があったのです。マドモアゼル シャネルは革命家だったのか、それとも予言者だったのか。その両方と言えるのではないでしょうか。

    シャネルの2011春夏 オートクチュール コレクションは、1920年代と21世紀をつなぐ眩い架け橋を作り出しました。
    ローウエストに細身のバスト。優美な足元には透明なリボンのついたバレリーナシューズ。淡いソフトカラーや光沢のあるパールカラー、連なるスパンコールの煌めきが彩りを添えます。刺繍を施したシャツは、脚をどこまでも長く見せるスリムジーンズに合わせています。重厚感やブルジョア的要素を排除した、かつてないほど軽やかで若々しいルック。全体に漂う完璧な気品と贅沢な素材、そこに巧妙に施された控えめな装飾が今回のコレクションの特徴であり、マドモアゼル シャネルにより刻まれたスタイルを見事に再現しています。

    撮影: ブノワ ペヴェレリ

  • 2010年12月7日
    Par Elisabeth Quin

    THE PARIS-BYZANCE SHOW
    BY ELISABETH QUIN

    2010年12月7日夜。パリは雪混じりの雨でした。カンボン通り31番地の黒い鍛鉄の門をくぐりオートクチュール サロンの階段を上った先には、魔法にかけられたような不思議な世界が広がっていました。15世紀もの時を遡り、ボスポラス海峡の両岸に拡がっていたビザンチン帝国の都がよみがえったのです。イスタンブールがまだコンスタンティノープルと呼ばれ、東洋と西洋の狭間にあって2つの文明をともに昇華させた時代。会場の壁はブロンズのスパンコールで覆われ、東洋風のランタンが官能的な柔らかい光を投げかけています。まるでハーレムのような雰囲気に、ハンドペイントのクッションが並ぶ贅沢なソファーに体を投げ出したい衝動に駆られます。トルコの伝統菓子、ロクムの甘さに酔いしれ、パリにいることを忘れそうになった瞬間に、時を超越した、鮮烈で風刺的なサウンドが聞こえてきました。レジの中でぶつかり合うコインの音。ピンクフロイドのアルバム 『狂気』 に収録されている曲「マネー」です。カール ラガーフェルドのユーモアのセンスに再び衝撃を受けた瞬間でした。そしてショーが始まりました。
    ブラック ツイードにゴールドの糸で刺繍が施された細身のコート。サイハイブーツは黒とエッグシェルホワイトのバイカラー。完璧なピーコート。光沢のある肌のように身体にフィットしたパンツ。ピンクフロイドのサイケデリックなリフレインに合わせるように、モデルたちはキャットウォークをゆったりと進み、中性的なエレガンスを戸惑うように表現しています。その姿は、ビザンチンやイスタンブールから想像される東洋的なイメージとは正反対のもの。アラベスク模様のフラット サンダルを履く彼女が女帝であるなら、その足には翼があるに違いありません。細い腰、くびれたウエストに短い丈のテーラード スカートを装い、小生意気で新鮮なイメージのイヴニング バイカー ジャケットを羽織っています。彼女にとって女帝でいることは、一日だけの、もしくは一夜の夢。決して宿命ではなく、単なるゲームなのです。
    アクセサリーは洗練さの極みともいうべき豪華なものでした。ルサージュによって刺繍が施されたハンドバッグ「2.55」、天然石を散りばめた、小さな中国のティーポットのような巾着型のハンドバッグ。プレタポルテにおいては、華やかで豪華な装飾が、厳密に計算されたカッティングと好対照をなしています。
    続いてマハラニ チュニックと、ヒールを貴石で彩った赤いブーツが登場。白いサテンの襟が清廉な雰囲気のブラック ドレス、黒のレザー スカートとセットアップの七分袖のジャケット。ワイン、マロン、アンティーク ゴールドといった色合いのツイード。ブロンズカラーでパッド入りのフィンガーレス グローブ。いずれも卓越した職人たちの技巧によるもので、ビザンチン美術の象徴といえるモザイクをテーマにした、極めて優美なコレクションです。
    特に素晴らしかったのは、エメラルドグリーンのハーレム パンツを腰で履いていたスタイルや、バギーパンツ、そして「高級なヒッピー」ルックとでも呼ぶべきリブ コーデュロイのスタイルです。実際、今回のコレクションではオリエンタルのあらゆるスタイルが表現されていました。ピエール ロティ、ユスティニアス帝が登場したかと思えば、70年代初頭、マラケシュに滞在するタリサ ゲティの姿も。そして突然、オープンワークと刺繍が施されたボイルの素晴らしいイヴニング ドレスが登場します。モデルたちは、あたかも阿片の世界を漂うかのように無関心さを装います。十字軍の時代から抜け出たような黒と白のチュニック、金のスパンコールで覆われたイヴニング ジャケットはオープンに羽織ることで無邪気な美しさを醸し出しています。いずれも、ゴールドなどの抑えた色遣いによって、仰々しさとは無縁の、落ち着いたラグジュアリーに仕上げられています。
    フィナーレには、ボイルやレース、刺繍などの気品あふれるファブリックでつくられた、聖職者の黒いロングケープという予想外のいでたちで、スーパーモデルのフレジャ ベハが登場。その姿は、カール ラガーフェルドがラヴェンナのサン ヴィターレ聖堂を訪れた際に魅了された、コンスタンティノープルの皇妃テオドラのモザイクそのものでした。

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